
中小企業の資産運用と機関投資家、その意思決定体制の違い
「これから上がる株は何だろう?」
「今、一番儲かる金融商品は何だろう?」
資産運用というと、こうした金融商品の選択から考える人が多いのではないでしょうか。
しかし、機関投資家の資産運用は、「何を買えば儲かるか」という発想から始まりません。
※機関投資家とは、年金基金や生命保険会社、銀行、証券会社など、多額の資金を専門的・組織的に運用する投資家のことです。皆さんのもとに来る営業担当者とは、役割も立場も異なります。
まず運用目的を明確にし、許容できるリスクを把握したうえで、株式や債券などへの資産配分を決めます。
つまり、「何を買うか」の前に「どう運用するか」を考えるのです。
一方、中小企業ではどうでしょうか。
数億円の設備投資なら、事業計画や投資回収期間を慎重に検討するはずです。
ところが、同じ数億円の金融資産となると、銀行や証券会社から手数料収入を優先した商品提案を受け、社長一人が感覚的に投資を決めてしまうケースもあります。
さらには、保障が主目的であるはずの生命保険を、資産運用の中心に据えてしまうケースもあります。これは最悪ですね・・・
設備投資には厳しい経営者が、金融商品には驚くほど無防備になる。
数億円、数十億円の資産運用を、社長個人の知識と経験だけに委ねてよいのでしょうか。
1. 中小企業の資産運用は、個人投資家と機関投資家の中間にある
個人投資家と機関投資家の違いは、運用金額だけではありません。
機関投資家は、運用目的やリスク許容度に基づいて資産配分を決め、一定のルールに従って運用します。
一方、数億円から数十億円の運用資産を持つ中小企業では、個人投資家にはアクセスしにくい金融商品も含め、幅広い投資の選択肢がありながら、最終判断は社長一人というケースも珍しくありません。
運用金額は機関投資家並みでも、意思決定は個人投資家のまま。
これが、中小企業の資産運用に潜む構造的な問題です。
しかも、投資判断の根拠が金融機関の営業担当者によるセールストークだけでは、資産全体のリスクを把握することも難しくなります。
本来、金融商品は企業の運用方針に合わせて選ぶものです。金融機関から提案された商品に合わせて、運用方針を考えるものではありません。
2. 機関投資家はどのように資産運用を行っているのか
機関投資家は、最初に運用目的と許容できるリスクを定め、株式や債券への資産配分を決定します。
例えば、日本の公的年金を運用するGPIFは、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式の4資産にそれぞれ25%を配分することを基本としています。
一方、生命保険会社では、将来の保険金支払いに備え、国債などの債券を中心とした資産運用が行われています。
こうした資産配分は「アセットアロケーション」と呼ばれ、運用成果を左右する重要な要素です。
また、機関投資家では、運用担当者とリスク管理担当者などが役割を分担し、投資判断や運用状況を組織的に管理しています。
何を買うかだけでなく、なぜ買うのか、どこまで損失を許容するのか。その判断基準が先にあるのです。
3. 運用期間が違えば、選ぶべき金融商品も変わる
例えば、ある企業に10億円の余裕資金があったとします。
ここで最初に考えるべきなのは、「何に投資すれば最も儲かるか」ではありません。
その資金をいつ使うのか。どこまで損失を許容できるのか。
この2つだけでも、運用方針は大きく変わります。
ケース① 孫の代まで使わない、超長期の資金
子どもや孫の代まで数十年間使う予定のない資金なら、世界経済の成長を取り込む株式投資が有力な選択肢です。
例えば、全世界株式に分散投資する「オルカン」のようなインデックスファンド(指数に連動する投資信託)。
ネット証券なら購入時手数料が無料で、信託報酬も低い商品を選べます。こうした商品を長期保有するだけでも、合理的な資産運用は可能です。
運用方針を決めておけば、相場の混乱や金融機関の営業に振り回され、不要な売買を繰り返すことも避けやすくなります。
もともと繊維会社だったウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイも、長年の投資を通じて巨大な企業グループへと成長しました。
自分の代では難しくても、孫の代には本業と資産運用の両輪で成長する企業になっているかもしれない。そんな未来を想像するとロマンがありますね。
ケース② 数年以内に使う予定があり、単年度の損失も避けたい資金
一方、3年後に新工場を建設するための資金なら、話はまったく違います。
優先すべきは高い利回りではなく、3年後に必要な金額を確保することです。
候補になるのは、円預金や、資金を使う時期までに満期を迎える日本国債、地方債、信用力の高い社債など。
さらに利回りを求めれば、低格付け社債、劣後債、外国債券、仕組債なども選択肢に入ります。しかし、その分だけリスクも増えます。
特に、使用時期が決まっている資金で大きなリスクを取るのは慎重であるべきでしょう。
なお、債券も途中売却すれば損失が生じることがあるので注意が必要です。
ケース③ 10年間は使わないが、その後に資金需要がある場合
10年後に設備投資や役員・従業員の退職金などに充当する資金なら、10年物の債券に投資する方法がありますが、運用期間に応じてリスクを調整する戦略も考えられます。
例えば、最初の5年間は株式型の投資信託や個別株式への分散投資を中心に、ある程度のリスクを取ってリターンを追求する。
その後は、資金を使う時期が近づくにつれて、株式の比率(個別株式・株式型投資信託)を下げ、債券や預金へと徐々に移していきます。
もし5年目に株式市場が暴落していたら、反発を待って株式の比率を維持する戦略も考えられます。
一方で、金融機関の営業担当者が勧める毎月分配型投資信託にも要注意です。 年率20%相当の分配金を受け取れても、それが運用益とは限りません。分配金を安心して使っていたら、10年後には肝心の元本が大きく減っていた、ということもあり得ます。

資金を使う時期が近づくほど、増やすことより守ることを重視する。
これも資産運用の重要な考え方です。
金融商品より先に、運用方針を決める
| 資金の性格 | 運用方針 | 主な選択肢 |
|---|---|---|
| 数十年間使わない | 長期的な成長を重視 | 全世界株式インデックスファンドなど |
| 数年以内に使う | 安全性・流動性を重視 | 国債、地方債、社債、仕組債など |
| 10年後に使う | 徐々にリスクを低減 | 株式・債券を組み合わせた運用 |
同じ10億円でも、使う時期と許容できる損失によって、選ぶべき金融商品は変わります。
「何を買えば儲かるか」ではなく、「いつ、何のために使う資金なのか」。
金融商品の選択は、その後の話です。
4. 運用規模と意思決定体制は釣り合っているか
中小企業が、年金基金や生命保険会社のような専門組織を持つ必要はありません。
しかし、数億円、数十億円を運用するのであれば、最低限の運用方針や判断基準は必要でしょう。
例えば、運用可能な資金の範囲、許容損失、特定の資産への集中を避けるルールなどです。
また、運用状況を定期的に確認する仕組みも考えられます。
もちろん、中小企業では社長が最終的な投資判断を下すこともあるでしょう。それ自体が問題なのではありません。
問題は、会社としての運用方針がないまま、金融機関のセールストークや社長個人の感情・相場観だけで投資を決めてしまうことです。
仮に社長が優秀な投資家だったとしても、その人の経験や判断だけに依存していれば、社長が交代した瞬間に運用方針が失われる可能性があります。
企業の資産運用は、社長個人の投資趣味ではありません。
本業と同じく、会社として管理すべき経営判断の一つです。
おわりに
数億円、数十億円という金融資産を保有していても、それに見合った運用体制があるとは限りません。
重要なのは、儲かりそうな金融商品を探すことではなく、運用目的とリスク許容度を明確にし、会社として判断できる仕組みを持つことです。
社長が一人で最終判断を下すとしても、その判断には会社としての運用方針と明確な根拠が必要です。
数億円の設備投資と同じように、数億円の金融資産にも経営者としての慎重な判断が求められるのではないでしょうか。
本日はここまで、それではチャオチャオ!
※本記事は法人の資産運用に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではありません。

